一輪ごとに、誰かの言えなかった言葉を届ける。記憶と引き換えに花信を送り、花が咲く日だけ扉が開く。
古い路地の奥に、一年にたった二十四日だけ開く店がある。花を売る店ではない——花を届ける店だ。待ちすぎた人たちの言葉を乗せて。
六十年の記憶と引き換えに、言えなかった「ごめん」をひとつ。
失わなかった友を忘れたいと願う女。ただ、連絡しなくなっただけ。
まだ開かれていない花信。
この店はお金を取らない。記憶をひとつ——手放してもいいと思う記憶を、花に織り込み、風に乗せて、もう声の届かない人のもとへ送る。
記憶は蔓のように繋がっている。ひとつ手放せば、それに繋がるすべてが花とともに去る。送った人は来た時より軽く、来た時より空っぽに帰る。